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東京地方裁判所 昭和28年(ワ)5594号 判決

原告 花島新太郎 外六名

被告 財団法人モーター普及会 外一三名

主文

昭和二十七年十月十三日開催せられた被告財団法人モーター普及会の理事会議、及び評議会における、被告財団法人モーター普及会の解散、並びに、被告板橋一雄、同毛利政弘、同中井宗夫、同大黒安雄を清算人に選任する、旨の各決議はいずれも無効であることを確認する。

被告毛利政弘、同中井宗夫、同佐藤十郎、同佐々木猛二、同横井孝、同石持良吉、同阿部博、同宮田憲介、同佐々木喜代次、同中静市郎、同大黒安雄は、いずれも、被告財団法人モーター普及会の理事及び評議員の職務を行うものでないこと、並びに、被告黒木秋造は被告財団法人モーター普及会の評議員の職務を行うものでないことを、それぞれ確認する。

原告小池十三、同米沢豊、同小泉武、同国広武逸、同牧石康平は、いずれも、被告財団法人モーター普及会の理事及び評議員の職務を行うものであること、並びに、原告片岡昭二郎は被告財団法人モーター普及会の評議員の職務を行うものであることを、それぞれ確認する。

原告等のその余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用はこれを十分し、その一を原告等の負担、その余を被告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、請求の趣旨として、主文第一項乃至第三項同旨(それぞれ請求の趣旨第一項乃至第三項)、並びに、被告板橋に対し、被告板橋が被告財団法人モーター普及会の名において東京法務局日本橋出張所昭和二十七年十月二十日受理に係る被告財団法人モーター普及会の解散、並びに、被告板橋一雄、同毛利政弘、同中井宗夫、同大黒安雄の清算人選任登記、同法務局同月六日受理に係る被告毛利政弘、同中井宗夫、同佐藤十郎、同佐々木猛二、同横井孝、同石持良吉、同阿部博、同宮田憲介、同佐々木喜代次、同中静市郎、同大黒安雄の理事選任登記、及び、同法務局同月十六日受理に係る原告小池十三、同米沢豊、同小泉武、同国広武逸、同花島新太郎、同牧石康平、訴外外岡昊の理事解任登記の抹消登記手続をそれぞれせよ。訴訟費用は被告等の負担とする。旨の判決を求め、その請求原因として次のとおり陳述した。

一、被告財団法人モーター普及会(以下、単に、被告普及会と略称する)は、昭和二十一年二月二十六日設立せられた、モーターに関する知識技能及びその利用法を普及することを目的とする、民法第三十四条の規定に基く公益財団法人である。

被告板橋一雄は昭和二十三年七月二十四日以降引続き被告普及会の会長兼理事長(理事も兼ねる)、評議員の地位にある者であり、原告小池十三、同米沢豊は昭和二十六年四月一日に、同小泉武、同国広武逸、同牧石康平は昭和二十七年一月十日に、同花島新太郎は同年五月一日に、それぞれ被告普及会の理事及び評議員に選任せられたものであり、同片岡昭二郎は昭和二十六年二月二十六日に被告普及会の評議員に選任せられたものである。

二、被告板橋は会長の地位にありながら、全く不純な動機に基き、大分以前から被告普及会を解散しようとする意思を有していたもので、原告等は極力これを阻止せんとして互に拮抗してきたのであるが、昭和二十七年八月初め、原告等が偶々被告普及会の登記簿等を閲覧したところ、理事、評議員たる原告等の全く関知しない間に、同年七月九日開催されたという被告普及会の理事会議の決議により、原告片岡はその評議員たることを、原告片岡を除くその余の原告等六名はいずれも理事及び評議員たることをそれぞれ解任せられたとし、また、被告普及会は、同月十五日開催されたという評議会の決議により、目的たる事業が成功不能であるとの理由で解散せられたとして、それぞれの登記がなされていることを発見した。しかし、右理事会議及び評議会なるものは真実開催された事実なく、法律上全く存在しないものであり、且つ、被告普及会の目的事業の成功不能というがごときこともまた全くの虚構であるので、原告等七名はその理由を具し、被告板橋及び訴外外岡昊(いずれも、被告普及会の清算人に選任せられた旨登記せられているもの)の両名を相手方として、東京地方裁判所に対し、同庁昭和二十七年(ヨ)第四、四三二号財団法人仮処分命令申請事件を提起し、同年九月九日、同裁判所から「右理事会議、及び評議会の各決議の効力を仮に停止する、被告板橋、及び、訴外外岡は、被告普及会の清算人の職務を仮に執行してはならない、昭和二十七年七月八日現在の被告普及会の理事、評議員は仮に理事及び評議員の職務を執行することができる」旨の仮処分決定を得た。これに対し、被告板橋は同年九月二十一日原告等に書面を送り、右理事会議、及び評議会の各決議はいずれも全く存在しない架空のものであることを認める旨を通知し来たり、次で、同月二十九日右理事会議、及び、評議会の決議に基く原告等の解任、並びに被告普及会の解散の各登記は、いずれも錯誤に基くものとして、これを抹消した。その結果、被告普及会は解散以前の状態に復帰し、会務は昭和二十七年七月八日現在の役員によつて運営せられることになり、ここに、昭和二十七年七月九日の理事会議、及び、同月十五日の評議会の問題は一応の決着をみた。

三、しかし、被告普及会の解散を飽くまで強行せんとする被告板橋の不逞なる意図は、遂にその手段を選ばないまでになつた。即ち被告普及会の解散に反対する原告等の解任、及び、被告普及会の解散の決議という捏造した一連の行為が右仮処分決定によつてその実効性を収め得なくなるや、自己に組する理事、評議員を多数任命し、以て、解散に反対する原告等を数において圧倒して強引に被告普及会を解散に持込まんと意図し、被告板橋は、

(イ)  右仮処分決定が発せられた直後である昭和二十七年九月十三日被告普及会の理事及び評議員の選任は寄附行為第十三条及び第十七条の各規定に基きいずれも会長たる被告板橋の専権事項であるとして、被告普及会の理事会議、及び、評議会の決議に基くことなく、被告普及会の会長たる資格で擅に被告毛利政弘、同中井宗夫、同佐藤十郎、同佐々木猛二、同横井孝、同石持良吉、同阿部博、同宮田憲介、同佐々木喜代次、同中静市郎、同大黒安雄の十一名を被告普及会の理事及び評議員に、同黒木秋造を被告普及会の評議員にそれぞれ選任し、右理事選任の点につき、同年十月六日東京法務局日本橋出張所においてその旨の登記を了し、

(ロ)  次いで、同年十月十一日午後六時、東京都中央区日本橋室町三丁目一番地協和会館において、被告普及会の評議会を開催し、同年九月十三日会長たる被告板橋によつて選任せられた右新評議員十二名と被告普及会の評議員たる訴外藤田武及び会長被告板橋、並びに、監事訴外日下繁、計十五名が出席したにすぎず、従来からの評議員である原告等七名が出席しなかつたにも拘らず、被告普及会の評議会が正当に成立したものとして議事に入り、緊急動議として上程された「前記東京地方裁判所昭和二十七年(ヨ)第四、四三二号財団法人仮処分命令申請事件を提起した役員、並に、之に協力した役員解任の件」という議題を審議し、この議題につき右評議会において、原告片岡が被告普及会の評議員たること、及び、原告片岡を除くその余の原告等六名並びに訴外外岡昊、同藤田晃雄が被告普及会の理事及び評議員たることをそれぞれ解任する旨の決議をなしたとして、理事たる右六名の原告等及び訴外外岡の理事解任の点につき、同月十六日同法務局においてその旨の登記を了し、

(ハ)  更に、同年十月十三日午後六時、右同所において、被告普及会の理事会議を開催し、同年九月十三日会長たる被告板橋によつて選任せられた右新理事のうち被告中井、同佐藤、同横井、同石持、同宮田、同佐々木喜代次、同中静、同大黒の八名と理事たる会長被告板橋、並びに、監事訴外日下繁、計十名が出席したにすぎず、従来からの理事である原告片岡を除くその余の原告等六名が出席しなかつたにも拘らず、被告普及会の理事会議が正当に成立したものとして議事に入り、右理事会議において、被告普及会に財政及び事業状況に照して目的事業の成功が不能であるとして、その解散、並びに、被告板橋、同毛利、同中井、同大黒の四名を清算人に選任する、との各決議をなすと共に、同日午後七時三十分、右同所において、引続き被告普及会の評議会を開催し、右理事会議に出席した被告等九名(いずれも、評議員にも選任されている)及び監事訴外日下繁と被告普及会の評議員たる訴外藤田武、並びに、同年九月十三日会長たる被告板橋によつて選任せられた右新評議員たる被告黒木秋造、計十二名が出席したにすぎず、従来からの評議員である原告等七名が出席しなかつたにも拘らず、被告普及会の評議会が正当に成立したものとして議事に入り、右評議会においてもまた、右理事会議におけると全く同様の被告普及会の解散、並びに清算人選任の各決議をなしたとして、同月二十日同法務局においてその旨の登記を了した。

四、しかし、昭和二十七年九月十三日被告板橋のなした右理事、評議員の選任行為、同年十月十一日開催せられた右評議会における理事、評議員解任決議、並びに、同月十三日開催せられた右理事会議及び評議会における被告普及会の解散並びに清算人選任の決議は、いずれも法律上全くその効力の発生するに由なきものである。以下、順次その理由を述べる。

(一)、昭和二十七年九月十三日被告板橋のなした右理事、評議員の選任行為について

(1)、被告板橋は、被告普及会の理事及び評議員の選任は寄附行為第十三条、第十七条の各規定に基きいずれも会長たる被告板橋の専権事項であるとして、被告普及会の会長たる資格で被告毛利、同中井、同佐藤、同佐々木猛二、同横井、同石持、同阿部、同宮田、同佐々木喜代次、同中静、同大黒の十一名を被告普及会の理事及び評議員に、同黒木を被告普及会の評議員にそれぞれ選任した。しかし、被告普及会の会長たる被告板橋には独自で理事、評議員を選任する権限がない。

そもそも、被告普及会には、その理事によつて構成される理事会議と、評議員によつて構成される評議会の二つの機関がある。尤も、理事は評議員中から選任されるが(寄附行為第十三条)理事となることによつて評議員の資格を喪失せず、両者を兼任する。ところで、理事会議と評議会とは共に議決機関であるが寄附行為の規定上、両機関の権限の及ぶ範囲、及び、その相互関係については必ずしも明瞭でない。しかし、民法第五十二条第二項の、理事数人ある場合においては財団法人の事務は理事の過半数をもつてこれを決する旨の規定の精神に徴し、被告普及会の理事、評議員の選任という重要事項は、少くとも理事会議の決議によらなければならないものと解すべきである。しかも、新に理事、評議員を選任する場合には直ちにその報酬が問題になるし、従来の理由、評議員との職務の分担、協調などの点も考えなければならないから、少くとも理事の過半数の同意を必要とするという実際上の要請もあり、且つ、被告普及会の従来の慣行もまた、理事、評議員の選任については、理事会議及び評議会の両議決機関が、それぞれの決議をもつて、同一日中に同一内容の決定をなしていたのが実状である。従つて、寄附行為の解釈からするも、また、従来の慣行からするも、被告普及会の理事、評議員の選任は少くとも理事会議の決議によらなければならないのであつて、会長たる被告板橋の専権に属する事項では決してない。寄附行為第十三条及び第十七条は、理事及び評議員はそれぞれ会長が委嘱する旨を規定するが、これ等の規定は、いずれも、被告普及会の意思決定をも会長の専断に委せる旨の規定ではなくして、理事会議で(乃至は評議会をも加えて)すでに決定された被告普及会の意思を、理事、評議員に選任された者に対し単に表示する方法だけを定めているにすぎない。しかるに、被告板橋は理事、評議員の選任が会長の専権事項であると誤信し、理事会議の決議がないのに、会長たる資格で擅に前述の被告等十二名を理事及び評議員、又は、評議員に選任したが、この選任はその権限のない者のなした無効の行為であり、選任の効力の発生するに由ないものである。仮に、理事、評議員の選任につき、評議会の決議が理事会議のそれに代り得るものとしても、評議会の選任決議もまたなかつたこと前述のとおりであるから、右選任行為の無効であることには変りがない。

(2)、仮に、百歩譲り、理事、評議員の選任が会長たる被告板橋の専権事項であるとしても、会長たる被告板橋がなした昭和二十七年九月十三日の右理事、評議員の選任行為は、これによつて理事、評議員に選任されたという前述の被告等十二名と通じてなした虚偽の意思表示であるから無効である。

元来、被告普及会とその理事、評議員との関係は委任契約関係若しくは委任契約類似の関係であるから委任に関する民法の規定が適用乃至準用せらるべきものである。しかして、理事、評議員は存続し活動する被告普及会の運営のために存する機関構成員であるから、理事、評議員の選任、及びそれに対する承諾は当然このことを前提としなければならない。しかるに被告板橋は、昭和二十七年九月十三日の右理事、評議員の選任に際し前述の被告等十二名を現に存続し活動している被告普及会の業務を担当するところの機関構成員たる理事、評議員に、真実、任命する意思を全く有していなかつた。被告板橋が右理事、評議員の選任をなすに至つた事情、経緯は次のごとくである。即ち、被告板橋は昭和二十三年会長に就任以来被告普及会の経営を掌握してきたものであるが、その間、(イ)被告普及会の会長名義で自動車の技倆証明書を濫発したため、監督官庁から右証明書の発行停止処分を受け、その結果、被告普及会の最も大きな財源を失わしめ、(ロ)自動車運転の教育にあたる学校の設立許可の申請をして被告普及会の金十万円余りを機密費として費消したのに、遂にそれが認可とならず右申請を取下げてしまい、(ハ)また、被告普及会において二重帳簿を作成し、正規の帳簿を巧みに操作して以て会長の機密費名下に不当に多額の被告普及会の金員を濫費し、(ニ)被告普及会の前身である機械化国防協会から被告普及会に寄附せらるべき電話を勝手に自己個人名義にしたうえ、これを他に売却してその代金を着服する等、全く不当な行為を重ねていながら、右のようなことが主たる原因で昭和二十七年三月頃被告普及会の経理面が苦境におちいるや、自己の非を棚に上げ、むしろこれを好機として、被告普及会の財産一切を他の同業者に一括譲渡し、自己のみはその同業者から生活費の保障を得ようという不逞な意図を抱き、かゝる動機から被告普及会を解散せんと画策をするに至つた。しかして、前述したごとく、被告板橋は、被告普及会の解散に反対する原告等を解任するという昭和二十七年七月九日の理事会議の決議、及び被告普及会を解散するという同月十五日の評議会の決議という一連の行為を捏造したが、これ等が前述の仮処分決定によつてその実効性を収め得なくなつたことに鑑み、今後、あくまで、被告普及会の解散を強行せんがためには、形式上一応理事会議及び評議会を開催しなければならないものと悟り、その場合、解散に反対する原告等を圧倒するには自己に組する理事、評議員を多数任命する必要があると考え、被告普及会とその理事、評議員間の委任関係の本来の目的を離れた、原告等の解任と被告普及会の解散ということのみを目的として、右理事、評議員の選任を行つたものである。右の消息を伝えるものとして次のような事実を挙げることができる。(イ)右理事、評議員選任当時の被告普及会の役員は、原告等七名の外に、理事、評議員として訴外外岡昊、同藤田晃雄、評議員として同藤田武がおり、これに理事、評議員を兼ねている会長被告板橋を加えると、理事九名、評議員十一名(内九名は理事兼任)であつて、しかも、この従来の理事、評議員の員数で被告普及会の業務を運営するに何等の支障もなかつた。若しこれに右理事、評議員の選任行為で新に選任せられたという役員を加えることにすると、新旧理事合計二十名、評議員合計二十三名に及ぶことになる。寄附行為第十一条によれば、理事、評議員をいずれも若干名置く、ということになつているが、こゝにいう若干名とは、被告普及会程度の事業規摸においてはかような多数の役員を予想したものではないし、またその必要もない。右理事、評議員の選任行為は、被告板橋が被告普及会を解散せんがためになしたとする以外にその合理的根拠を見出し難い事実、(ロ)のみならず、右理事、評議員の選任後間もない昭和二十七年十月十一日の右評議会において原告等七名の解任、及び、被告普及会の理事及び評議員である訴外外岡昊、同藤田晃雄の両名を、両訴外人が前記の仮処分事件において真実を陳述したのに被告板橋にさからつて被告普及会の解散に反対するものと曲解し、それだけの理由で解任する旨の決議をなしたとして、結局、役員の数を一ケ月足らずの間に、再び理事十二名、評議員十四名に減少している事実、(ハ)及び、新らしく理事、評議員になつたという右被告等十二名は、いずれも、従来被告普及会と全く無関係の者であつた事実、(二)更に、昭和二十七年九月十三日の右理事、評議員の選任、同年十月十一日の右評議会における原告等七名、及び、その他の者の解任決議、並びに同月十三日の右理事会議及び評議会における解散並びに清算人選任決議という一連の行為が相次いで日時を接してなされている事実等に徴すれば、この間の事情を推測するに充分である。以上の如く、被告板橋が昭和二十七年九月十三日なした右理事、評議員の選任行為は、現に存続し活動している被告普及会の業務を担当しているところの機関構成員たる理事、評議員に、真実、選任する意思がないのに、単に見せかけのため外形上なされた選任行為にすきず、前記の被告等十二名もまた、這般の事情を知悉しながら単に外形上理事、評議員の就任を承諾しているにすぎないのであるから、右選任行為は相手方と通じてなした虚偽の意思表示であり、民法第九十四条第一項の規定によつて無効であるというべきである。

(3)、被告板橋のなした昭和二十七年九月十三日の右理事、評議員の選任行為は、被告板橋が自己の私腹を肥さんとする不逞な意図の下に、被告普及会の解散を強行せんがため、ただ単にその手段としてなしたものであること前段に詳述したとおりであるから、仮に、右理事、評議員の選任行為が通謀による虚偽の意思表示とは認められないとしても、それは被告板橋が会長の権限を濫用してなした行為であつて無効である。

(二)、昭和二十七年十月十一日開催せられた右評議会における理事、評議員解任決議について

(1)、昭和二十七年十月十一日開催せられた被告普及会の評議会において、原告片岡が被告普及会の評議員たること、及び、原告片岡を除くその余の原告等六名並びに訴外外岡昊、同藤田晃雄が被告普及会の理事及び評議員たることをそれぞれ解任する旨の決議をなしたとして、理事たる右六名の原告等及び訴外外岡の理事解任の点につき、その旨の登記がなされている。

しかし、理事、評議員の解任の点についても委任契約に関する民法の規定が適用乃至準用せらるべきものであること前にも言及したところ(四の(一)の(2) )であるが、原告等七名に対しては会長たる被告板橋から右理事、評議員の解任の意思表示がなされていないから解任の効果は発生していない。

(2)、被告普及会の理事、評議員の選任は、寄附行為の解釈からするも、また、従来の慣行からするも、少くとも理事会議の決議によらなければならないことについては前段で詳述した(四の(一)の(1) )が、理事、評議員の解任の点についてもまた、その選任と全く同一の理由で、少くとも理事会議の決議によらなければならないのに、理事会議において、かつて、かゝる決議がなされた事実はない。従つて、仮令、評議会で原告等七名、及びその他の者の解任決議がなされたものとしても、それは権限のない機関のなした決議であるから無効である。

(3)、仮に、理事、評議員の選任につき、評議会の決議が理事会議のそれに代り得るものとしても、右評議会の決議には次のごとき瑕疵があつて、到底決議としての効力の発生するに由ないものである。即ち、(イ)先ず、右評議会の構成についてみるに、前述したごとく、右評議会に出席した者は、昭和二十七年九月十三日会長たる被告板橋によつて評議員に新に選任せられたという前記の被告毛利等十二名の被告と、被告普及会の評議員たる訴外藤田武及び会長被告板橋、並びに監事訴外日下繁、計十五名だけであつて、従来からの評議員である原告等七名は出席しなかつた。ところで、昭和二十七年九月十三日会長たる被告板橋がなした右評議員の選任行為は無効であること前述したとおりであるから前記の被告毛利等十二名の被告はいずれも評議員たる資格を有しないものである。しかるに、右評議会には、無資格者である前記の被告毛利等十二名の被告が出席しており且つ、従来からの評議員は、十一名中わずかに訴外藤田武と会長被告板橋の二名しか出席していないのであるから、かゝる者等によつて構成せられた右評議会は、法律上被告普及会の評議会とはいえないから、従つて、右評議会でなされたという原告等七名、及びその他の者の解任決議なるものもまた法律上不存在である。(ロ)のみならず、評議会を招集するには会日より相当期間前に各評議員にその通知を発すべきこと、及び、右通知書には会議の目的たる事項を記載すべきこと、いずれも事柄の当然であるのに、右評議会の通知は原告等七名に対し会日の前日である同月十日になされ、しかも、その通知書には、会議の目的たる事項として、原告等七名、及び、その他の者の右解任の議題が記載されていない。また、評議会は被告普及会の肩書所在地又はこれに隣接する地にこれを招集することを要するものであるのに、右評議会は被告普及会の肩書所在地でもなく、これに隣接する地でもない東京都中央区日本橋室町三丁目一番地協和会館において開催された。かように右評議会にはその招集の手続上幾多の瑕疵があるばかりでなく、右評議会は原告等七名が欠席することを予期し、その間隙に乗じて一方的に原告等七名、及び、その他の者を解任せんと図つたもので、その決議の方法が著しく不公正であつた。従つて、かゝる評議会においてなされた右解任の決議は到底有効なものとは認め難い。

(4)、仮に右に述べた幾多の瑕疵がなお右評議会の決議の無効なることを理由づけ得ないとしても、それは被告普及会の機関たる評議会がその権限を濫用してなした決議であるから無効である。即ち、理事、評議員の解任事由については寄附行為上特段の定めはないが、事柄の当然として、正当な理由がある場合に限られるべきものであつて、何等の理由がないのに恣意に委せて濫に解任するがごときことは許さるべきものでない。原告等七名は理事、評議員として誠実にその職務を行つてきたもので解任に価するが如き非行はさらにない。従つて、原告等七名を解任するという右評議会の決議は権限の濫用であること明らかである。

(三)  昭和二十七年十月十三日開催せられた右理事会議及び評議会における解散、並びに清算人の選任決議について

(1)、昭和二十七年十月十三日開催せられた被告普及会の理事会議においては、被告普及会は財政及び事業状況に照し目的事業の成功が不能であるとして、その解散、並びに、被告板橋、同毛利、同中井、同大黒の四名を清算人に選任する、との各決議をなすと共に、その直後引続き開催された被告普及会の評議会において、右理事会議におけると全く同様の被告普及会の解散並びに、清算人選任の各決議をなしたとして、その旨の登記がなされている。

被告普及会の解散、並びに、清算人選任の場合は、寄附行為上何等の規定なく、また勿論慣行もないが、当然、理事会議及び評議会の双方の決議の合致によつて決すべきものである。しかし、右理事会議及び評議会はいずれも適法に成立したものとはいえない。その構成についてみるに、右理事会議に出席した者は、前述したごとく、昭和二十七年九月十三日会長たる被告板橋によつて新に理事、評議員に選任せられたという前記の被告等十二名のうち、被告中井、同佐藤、同横井、同石持、同宮田、同佐々木喜代次、同中静、同大黒の八名と理事たる会長被告板橋、並びに、監事訴外日下繁、計十名だけであつて、従来からの理事である原告片岡を除くその余の原告等六名は出席しなかつた。また、右評議会に出席した者は、右理事会議に出席した被告等九名(いずれも、評議員にも選任されている)と、被告普及会の評議員たる訴外藤田武、及び、昭和二十七年九月十三日会長たる被告板橋によつて評議員に新に選任せられたという被告黒木秋造、並びに、監事訴外日下繁、計十二名だけであつて、従来からの評議員である原告等七名は出席しなかつた。ところで、昭和二十七年九月十三日会長たる被告板橋がなした右理事、評議員の選任行為は無効であること前述したとおりであるから、右理事会議及び評議会に出席した被告中井等八名の被告、及び、右評議会に出席した被告黒木は、いずれも、理事、評議員たる資格を有しないものである。しかるに、右理事会議及び評議会には、いずれも無資格者である右被告等がそれぞれ出席しており、且つ、右理事会議においては従来からの理事は九名中わずかに会長被告板橋一名、右評議会においては従来からの評議員は、十一名中わずかに訴外藤田武と会長被告板橋の二名しか出席していないのであるから、かゝる者等によつて構成せられた右理事会議、評議会は被告普及会の理事会議、評議会とはいえない。従つて、右理事会議及び評議会でそれぞれなされたという被告普及会の解散、並びに、清算人の選任決議なるものもまた法律上いずれも不存在であつて、その効力の発生するに由ないものである。

(2)、仮に然らずとしても、右理事会議及び評議会の各決議が被告普及会の解散の実質的理由としているところの、被告普及会の目的たる事業の成功不能というがごとき事実は全く存在しない。

そもそも、被告普及会の寄附行為には解散事由を定めていないから、被告普及会は実質的に民法第六十八条第一項所定の事由が発生しなければ解散決議をすることはできない。社会通念上成功不能と認められる客観的事実が存在している場合はじめて被告普及会は理事会議及び評議会の決議によつて解散するのである。従つて、後述のごとく、社会通念上何等成功不能を肯認せしめるに足りる事実がないのに拘らず、右理事会議及び評議会が真実に反して成功不能の事実ありと決議しても、これによつて直ちに民法第六十八条第一項第二号の解散事由が発生したということにはならず、右各決議は法律上何等の効力もない、無効な決議である。被告普及会の目的事業の成功がなお不能でないとする根拠は次のとおりである。即ち、前述した昭和二十七年七月十五日の評議会の後に、被告板橋が東京都教育委員会に提出した「財団法人モーター普及会解散に伴う残余財産処分許可の申請書」によれば、被告普及会の負債として訴外浜田寅作から借受けたという金六十七万円の債務を計上しているが、この債務は全く架空のものであり、他方、被告普及会の資産を総額百六十七万円と計上しているが、この評価も全く真実に反する低額なものである。被告普及会の資産のうちその敷地約千百坪の賃借権だけでも時価金五百万円を下らない。被告普及会の資産はその負債を差引いてなお相当額の資産超過となつている。被告普及会の経営の最も苦しかつたのは昭和二十五年の終り頃であるが、かゝる苦境におち入つたのは、主として、被告板橋の経営の不手際から、前述のごとく、自動車の技倆証明を濫発してその発行停止処分を受けたり、見込のない学校設立の申請をなし徒に十万円余りの機密費を費消したり、或いは私利私慾のために勝手に被告普及会の金銭を費消したという被告板橋の不法不当な行為に起因するものである。若し被告板橋が会長を辞めれば所轄官庁は直ちに自動車の技倆証明の発行の権限を再び被告普及会に与えると確言しており、また、現在国内に自動車が急増し運転技術者の養成が益々痛感せられているのであるから、被告普及会のごとき目的事業の成功不能ということは考えられない。被告板橋が為したごとく、理由のわからない交際費、機密費等を濫費さえしなかつたならば、財政は充分豊かであつた筈である。現に、前記の仮処分決定以降原告等が被告普及会の経営の衝に当つているが、その後の経営は極めて順調で益金を計上しており、被告板橋の作つた負債を返済し、自動車を新に購入し且つ教習場を整備して自動車運転の教習を行い、また外部へ出掛けて講義訓練を行う等、着々その業績を挙げている。

五、以上により、原告等は、先ず第一に、昭和二十七年十月十三日被告普及会の理事会議、及び、評議会においてなされた、被告普及会の解散、並びに、被告板橋、同毛利、同中井、同大黒を清算人に選任する、旨の各決議はいずれも無効なることの確認を求めるこれは決して過去の事実の確認を求めるものではないのであつて、被告普及会が清算中の財団法人ではなく、現に存続し完全な権利能力を有していることの確認を求めるための形式である。

次に、右のごとく、昭和二十七年十月十三日の右理事会議、及び、評議会における被告普及会の解散、並びに、清算人選任決議がいずれも無効である限り、被告普及会は現に存続し完全な権利能力を有しているから、従前の機関構成員たる理事、評議員によつて活動し運営せらるべきものである。ところで被告普及会の理事、評議員の任期は寄附行為上いずれも二年であり、また、任期満了によつて終任した理事、評議員は新に選任せられた理事、評議員が就職するまでなお理事、評議員の職務を行う権利義務を有するものである。昭和二十七年九月十三日会長たる被告板橋によつて被告毛利、同中井、同佐藤、同佐々木猛二、同横井、同石持、同阿部、同宮田、同佐々木喜代次、同中静、同大黒が被告普及会の理事及び評議員に、被告黒木は評議員にそれぞれ選任されたというも、右選任後二年の任期の最終日である昭和二十九年九月十二日の終了と共に右被告等の任期はすでにそれぞれ満了したのであるが、後任の理事、評議員に選任せられていないため被告普及会の右解散、並びに、清算人の選任の決議の無効が確認せられた場合、右被告等は後記の理事、評議員が選任せられるまで依然として理事、評議員の職務を行い得るものと主張するであろうことは明かである。しかし、被告板橋が昭和二十七年九月十三日なした右理事、評議員の選任行為は無効であるから、右被告等は被告普及会の理事、評議員の職務を行い得るものではない。原告小池、同米沢、同小泉、同国広、同花島はいずれも前述の日にそれぞれ被告普及会の理事及び評議員に正当に選任せられたものであり、原告片岡は前述の日に評議員に正当に選任せられたもので昭和二十七年十月十一日の右評議会の解任決議が無効であること前述のとおりであるから、原告等七名はそれぞれの選任の日から二年を経過した日にいずれも任期満了により終任しているけれども、右被告等の選任行為が無効であり、且つ、他に原告等七名の後任の理事、評議員の選任がなされていない以上、却つて、原告等七名がそれぞれ理事、評議員の職務を行う権利義務を有する筋合である。よつて、原告等は、第二に、被告毛利、同中井、同佐藤、同佐々木猛二、同横井、同石持、同阿部、同宮田、同佐々木喜代次、同中静、同大黒は、いずれも被告普及会の理事及び評議員の職務を行うものでないこと、及び、被告黒木は被告普及会の評議員の職務を行うものでないことの確認を、第三に、原告小池、同米沢、同小泉、同国広、同牧石、同花島は、いずれも被告普及会の理事及び評議員の職務を行うものであること、及び原告片岡は被告普及会の評議員の職務を行うものであることの確認をそれぞれ求める。

更に、第四として、被告板橋に対し、被告板橋が、被告普及会の名において、東京法務局日本橋出張所昭和二十七年十月二十日受理に係る被告普及会の解散、並びに、被告板橋、同毛利、同中井、同大黒の清算人選任登記、同法務局同月六日受理に係る被告毛利、同中井、同佐藤、同佐々木猛二、同横井、同石持、同阿部、同宮田、同佐々木喜代次、同中静、同大黒の理事選任登記、及び、同法務局同月十六日受理に係る原告小池、同米沢、同小泉、同国広、同花島、同牧石、訴外外岡昊の理事解任登記の抹消登記手続をすることをそれぞれ求める。これはそれぞれの登記原因となつている昭和二十七年十月十三日の右理事会議及び評議会における被告普及会の解散並びに清算人選任決議、同年九月十三日被告板橋のなした右理事選任行為、及び、同年十月十一日の右評議会における理事解任決議はいずれも無効であることに由るものであり、かくの如き請求は民事訴訟法第七百三十六条の意思の陳述をなすべきことの判決を求めるものであつて、当然許されるものと信ずる。

六、よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決を求めるため本訴に及んだ次第である。

と述べ、被告等の主張事実を否認した。〈立証省略〉

被告毛利、及びその余の被告等訴訟代理人は、原告等の請求を棄却する、との判決を求め、答弁として、

一、原告等の請求原因第一項乃至第三項記載の主張事実はいずれも認める。但し、同第二項、同第三項記載の事実中、被告板橋が不純な動機に基き大分以前から被告普及会を解散せんとし、それがためには手段を選ばずあくまで強行せんとする意図を有していたとの点は否認する。却つて、被告普及会の解散は昭和二十七年四月七日被告板橋が病気のため三ケ月間の安静療養を発表したときから原告等によつて計画されたものであつて、しかもその動機手段は全く悪質極まるものであつた。この点についてはなお後段で詳論するとおりである。また、原告等主張の昭和二十七年七月九日の理事会議における理事、評議員の解任決議、及び、同月十五日の評議会における被告普及会の解散決議がいずれも不存在であることを被告板橋が認めた理由は原告の主張と異なる。それは次のような事情によるものである。即ち、被告板橋が原告等主張の仮処分決定を受けた後調査したところ、被告板橋の全く不知の間に昭和二十七年五月一日理事訴外板橋文雄が辞任した旨の登記がなされていた。この登記は原告等七名が相謀つてその権限がないのに勝手に右趣旨の登記申請書を作成してなしたもので、理事であり且つ評議員をも兼ねている右訴外板橋文雄が辞任した事実はもとよりないのであるが、外形上ともかくかゝる登記がなされているため仮に同訴外人を被告普及会の理事、評議員から除外して考えると、昭和二十七年七月九日の右理事会議、及び、同月十五日の右評議会は寄附行為所定の定足数を欠く結果になるので、この理由によつて被告板橋は原告に対し、原告等主張のごとき右理事会議、及び、評議会の決議がいずれも存在しないものであることを認める旨の通知を発したのである。

二、同第四項の(一)、昭和二十七年九月十三日被告板橋がなした理事、評議員の選任の効力に関する主張事実中

(イ)、被告普及会にはその理事によつて構成される理事会議と評議員によつて構成される評議会との二つの機関があること、及び理事は評議員中から選任されるが、理事となることによつて評議員の資格を喪失せず、両者を兼任するものであること。

(ロ)、被告普及会の理事会議と評議会とは共に議決機関であること。はいずれも認める。しかし、

(一)、被告普及会の理事、評議員の選任が理事会議、及び、評議会の決議事項であるとの点(同項の(一)の(1) )は否認する。

被告普及会の理事、評議員の選任は会長たる被告板橋の専権事項である。このことは寄附行為第十三条、第十七条にそれぞれ明定せられているとおりであつて一点の疑いもない。理事、評議員の選任は理事会議及び、評議会の決議によらなければならないというがごとき原告等の主張は何等の根拠もないものである。被告普及会の従来の慣例においても、これまで理事、評議員の選任を理事会議、及び、評議会に諮つたことがない。昭和二十七年九月十三日の理事、評議員の選任は会長たる被告板橋が寄附行為の右各規定に依拠して適法に選任したものであり、これによつて理事、評議員に選任せられた原告等主張の被告等十二名からそれぞれその就任の承諾を得ているものであつて違法な点は少しもない。また、原告等主張の仮処分決定によつて、右理事、評議員選任当時被告板橋は被告普及会の清算人としての職務の執行は停止されていたが、しかし、理事長、会長としての職務の執行は停止されていなかつたから、被告板橋は会長の資格で右理事、評議員の選任権を行使するに何等の支障はなかつたものである。なお、原告等は新に理事、評議員を選任する場合には直ちにその報酬が問題になると主張しているが、被告普及会の理事、評議員は常任者以外は無給であるから、報酬の点が問題になるのは、理事、評議員が常任理事、常任評議員になつた場合だけであつて、単に理事、評議員が選任されただけでは直ちに報酬の問題は生じない。

(二)、次に、昭和二十七年九月十三日被告板橋がなした右理事、評議員の選任行為が相手方と通じてなした虚偽の意思表示であるとの点(同項の(一)の(2) )は否認する。

被告板橋が右理事、評議員を新に選任するに至つた理由は、原告等七名と被告普及会の理事及び評議員である訴外外岡昊、同藤田晃雄等が後段で詳論するがごとき不当不法な行為を繰り返して目に余るものがあつたのでこれ等の者が引続き理事、評議員の地位にあることは被告普及会の会務の運営に支障があるものと思料したので、会務の円滑なる運営を図るため新に適任者を理事、評議員に選任したものであつて、その間、相手方と通謀して真実理事、評議員に選任する意思がないのに外形上あたかも選任行為があつたかのように仮装したというがごとき事実はない。なお、原告等はこの点の主張を裏付けるものとして種々の間接的事実を主張しているのでそれ等の事実について述べるに、被告板橋が昭和二十三年会長に就任以来被告普及会の経営を掌握してきたことは原告等の主張とおりである。しかして、その間、(a)、被告普及会が従前からもつていた自動車の技倆証明書の発行権限を監督官庁から停止せられたことはあるが、それは、原告等が主張しているごとく、被告板橋が右証明書を濫発したため発行停止処分を受けたものではなく、監督官庁たる国家警察東京都本部交通課に被告普及会の方から進んで申出てその発行を中止したのである。(b)、また、被告普及会は、原告等が主張するとおり、自動車運転の教育にあたる学校の設立許可の申請をしたことはあるが、被告板橋はこの申請に関して原告等主張の機密費なるものを費消したことはない。右申請は理事会議及び評議会の決議に基いてなしたものであるが、原告花島を主とする原告等が右申請の認可を妨害したので遂に取下げざるを得なくなつた経緯にある。(c)、次に、被告板橋が被告普及会の帳簿を二重に作成し機密費名下に多額の金銭を濫費したとの主張事実は否認する。(d)、更に、電話の点であるが、機械化国防協会から被告普及会に電話が寄附せられたことがあつたが、その電話は接収財産の一部であつたため、所轄官庁たる東京都に返還したものであつて、原告等が主張するごとく被告板橋が勝手に売却してその代金を着服したような事実はない。(e)なお、昭和二十七年九月十三日の右理事、評議員選任当時の被告普及会の理事評議員の数及びその氏名が原告等主張のとおりであることは認める。

(三)、更に、昭和二十七年九月十三日被告板橋がなした右理事、評議員の選任行為が権限の濫用であるとの点(同項の(一)の(3) )は否認する。

被告板橋が右理事、評議員を新に選任するに至つた理由は前段で述べたとおりであつて、それは正当な理由に基く適法な選任行為である。

三、同第四項の(二)、昭和二十七年十月十一日の評議会における理事、評議員の解任決議の効力に関する主張事実中、

(一) 原告等に対し、昭和二十七年十月十一日の右評議会の決議に基く理事、評議員の解任の意思表示がなされていないとの点(同項の(二)の(1) )は否認する。会長たる被告板橋は右決議のなされた日に原告等七名に対し各別に右解任する旨を記載した書面を郵便で発送して通知ずみである。

(二) 被告普及会の理事、評議員の解任が理事会議の決議事項であるとの点(同項の(二)の(2) )は否認する。

被告普及会の理事、評議員の解任の点については寄附行為の明文上特段の定めがない。その選任の点について寄附行為第十三条、第十七条が明文を設けているのと異なつている。しかし、理事、評議員の選任が会長たる被告板橋の専権事項と定められている以上、その解任もまた、元来、会長たる被告板橋の専権事項と解さなければならない。ただ、昭和二十七年十月十一日開催せられた右評議会において、たまたま原告等主張のごとき緊急動議が提出され、出席評議員の全員一致でそれを右評議会の議題とすることを採決したので引続きその審議に入り、原告等主張のごとき理事、評議員の解任決議がなされた。よつて会長たる被告板橋は右決議に基いて原告等七名及びその他の者を解任して即日それぞれ解任の通知を発し、且つ、同月十六日原告等主張のごとき登記を了したもので、その間に何等違法の点がない。

(三) 昭和二十七年十月十一日の右評議会の決議には種々の瑕疵が存するとの点(同項の(二)の(3) )について、(a)、昭和二十七年九月十三日会長たる被告板橋のなした理事、評議員の選任行為が適法有効であること前述のとおりであるから、右評議会の構成について瑕疵があるとする原告等の主張はすでにその前提において理由がない。(b)、原告等に対する右評議会の招集通知が会日の前日になされたとの点は否認する。会長たる被告板橋は昭和二十七年十月八日原告等七名その他の評議員に対して右評議会の招集通知書を発している。そもそも、招集通知と会日との間に幾日を置くべきかについて寄附行為には別段の定がない。被告普及会において従来口頭又は電話で召集通知をなしていた慣例でもあるから、会日の前日に右評議会の招集通知をしたとしても何等違法のものではない。(c)、理事、評議員の解任に関する議題が右招集通知書に記載せられていなかつたことは認める。右解任の議題は右評議会において緊急動議として提出されたものを出席評議員の全員一致で右評議会の議題とすることを採決したので、引続き右議題の審議に入り原告等主張のごとき理事、評議員の解任決議がなされたものであるから原告等主張のごとき瑕疵はない。(d)、右評議会が原告等主張のとおりの場所で開催せられたことは認める。評議会の開催地については寄附行為に何等の規定がない。かゝる場合、通常は被告普及会の肩書所在地で開催するのが原則であろうが、必ずしもそこに限定せらるべきものではない。被告普及会の肩書所在地にある事務所では総数二十四名の新旧評議員を招集するには狭いので、交通上便利な右地を選んだのであつて適法な処置である。(e)、なお、右評議会の決議の方法が著しく不公正であるとの点も否認する。原告等七名は評議会招集の通知を受領しているにも拘らず出席しなかつたのであるから、それは故意に議決権の行使を抛棄したものと認めるの外はない。

(四) 右評議会における理事、評議員の解任決議が権限の濫用であるとの点(同項の(二)の(4) )は否認する。

原告等七名は被告普及会の理事、評議員としてまことに不誠実きわまるものであつた。会長たる被告板橋が原告等を解任したのは、原告等が次のような不行跡な行為をなしたのがその主要な理由である。即ち(イ)、昭和二十七年四月七日被告板橋が病気のため三ケ月間の安静療養を発表するや、原告等七名は会長たる被告板橋に相談もなく勝手に同月中旬頃早くも被告普及会の監督官庁たる文部省の係官に対して被告普及会が解散した場合についての相談に行つていること。(ロ)、昭和二十六年四月被告普及会が東京都学務課に対し自動車学校設置の申請をなしていたところ、昭和二十七年四月中旬頃原告等七名は病気で入院中の被告板橋から委任されたと詐称して、被告板橋の理事長印を無断持出したうえ右学務課に対して右申請書の訂正方を申出ていること。(ハ)、原告等七名は昭和二十七年四月下旬、被告板橋に内密で勝手に、被告板橋の知人である東京都港区及び墨田区の自動車練習所の所長訴外某に対し、被告普及会の権利財産を譲渡したいが受けてくれるかと相談に行つていること。(ニ)、被告普及会の自動車練習所敷地千余坪は被告板橋が個人として地主訴外藤間良策から借受けて被告普及会に提供しているものであるが、原告等七名は被告板橋にかくれて秘かに右訴外人の許に赴き、右敷地の借受人名義を原告花島若しくは同国広のいずれかの個人名義に変更して貰いたいと申出たこと。(ホ)、原告等七名は被告普及会の事業を原告の知人又は親戚の者に仮装譲渡して原告等七名で別途に会社を組織してその事業を引継いで経営しようと計画し、被告板橋にその同意を求めてきたが拒絶せられるや原告等七名は被告板橋に対して現状のまゝでは被告普及会の役職員の給料が支払えないといつて脅迫したこと。(ヘ)、原告等七名は被告板橋に秘して被告普及会の解散を企て、勝手に被告普及会の会長、理事長の名を使用して他の理事、評議員から白紙委任状を徴収する等種々画策して被告普及会の事業の運営を阻害したこと。(ト)、被告普及会の会計は原告等七名において担当していたが、会長たる被告板橋の承認がないのに原告等七名は勝手に被告普及会の金銭を出納し、被告板橋の関係書類の提出の命令にも応じなかつたこと。(チ)、原告七名は訴外帝国興信所を使つて関係諸官庁の係官に対して虚偽の宣伝をなし、以て被告普及会、並びに、被告板橋の名誉信用を毀損する行為にでたこと。(リ)、原告等七名は昭和二十七年五月一日頃勝手に理事訴外板橋文雄の辞任届及び同訴外人の印鑑を偽造行使し、且つ、被告普及会の会長、理事長印を盗用して右訴外人の辞任登記手続をなしていたこと。これ等の諸事実は理事、評議員として被告普及会のため忠実に職務を実行すべき義務に違反するものであるから、右は原告等七名の右解任を正当視せしめるに足りる充分な理由となり得るものである。

四、同第四項の(三)、昭和二十七年十月十三日の理事会議及び評議会における被告普及会の解散、並びに、清算人の選任決議の効力に関する主張事実中、被告普及会の解散、並びに、清算人の選任が理事会議及び評議会の双方の決議の合致によつて決すべき事項であることは認める。しかし、

(一) 昭和二十七年十月十三日の右理事会議及び評議会にはいずれも理事でない者、評議員でない者がそれぞれ多数出席し関与しているからその構成に瑕疵があるとの点(同項の(三)の(1) )は否認する。昭和二十七年九月十三日会長たる被告板橋のなした理事、評議員の選任行為が適法有効であること前述のとおりであるから、原告等のこの点の主張はすでにその前提において理由がない。

(二)、被告普及会の目的たる事業目的がなお成功可能であるとする点(同項の(三)の(2) )は否認する。

そもそも、一般に、財団法人はその目的事業の成功不能の事態に立ち到れば他に何等の可能を要せず当然解散するものであるが、果して客観的に成功不能が生じたかどうかを判断することが困難であるので、その財団法人理事会その他の機関が成功不能と認定して財団法人の解散決議をなした場合は、その解散決議によつて該財団法人は解散するものであつて、その場合、成功不能の事態が果して客観的に発生したかどうかは勿論問うところではない。従つて、被告普及会の右理事会議及び評議において目的事業の成功不能を認めて被告普及会の解散、並びに、清算人選任の決議がなされている以上、客観的に目的事業の成功不能の事態が発生したかどうかに拘わりなく、右解散決議によつて被告普及会は解散せられたものである。しかのみならず、被告普及会の昭和二十七年七月三十一日現在における資産総額は合計金五十五万円余であるに対し、負債は借入金債務だけでも金六十万円であつてすでに著しい債務超過となつている。原告等が主張する敷地約千余坪(これは正確にいえば千六百坪である)は被告板橋が個人として訴外藤間良策から借受けているものを被告普及会に提供使用せしめている関係にあつて、右敷地の賃借権はこれを被告普及会の資産として計上し得ないものである。加えて、被告普及会はその目的事業の極めて一小部分にすぎない自動車の教習事業のみを辛して行う程度で今日に至つたが、最近建物や教習用自動車も朽廃してきたので近々大修理を必要とするのにその資金の捻出方法がなく、また、物価の昂騰による人件費その他の増大、並びに、右金六十万円の返済不能による赤字繰越等のため昭和二十七年度の予算編成の見込が樹たない等、被告普及会の経営はすでに破綻に帰して久しく、最早再建の方途は全くない。昭和二十七年十月十三日の右理事会議及び評議会は右の状況を遂一検討した結果、遂に目的事業の成功不能であるとして解散の決議をなしたものであるから、原告等が主張するごとく右決議は真実に反して成功不能を認定したものでは決してない。被告普及会の目的事業がなお成功不能とする原告等の主張は根拠のない空論にすぎない。

五、同第五項記載の主張事実中、被告普及会の理事、評議員の任期が原告等主張とおり二年であることは認める。

六、原告等が請求原因として主張している事実中、以上で触れた事実以外の事実はすべて否認する。

七、なお、請求の趣旨第一項、昭和二十七年十月十三日被告普及会の理事会議、及び、評議会においてなされた被告普及会解散、並びに、清算人選任の各決議の無効確認を求める部分は過去の事実の確認を求めるものであるから、この点において確認の利益を欠く不適法な訴として棄却せらるべきである。

また、請求の趣旨第四項は、被告普及会の解散、並びに、清算人選任登記、及び、理事の選任、並びに、解任登記の各抹消登記手続を求める部分は原告が昭和三十一年六月十五日の本件口頭弁論期日において新に追加したものであるが、右新請求の追加併合による訴の変更には異議がある。

と述べた。〈立証省略〉

理由

一、被告財団法人モーター普及会(以下単に、被告普及会と略称する)は、昭和二十一年二月二十六日設立せられたモーターに関する知識技能及びその利用法を普及することを目的とする、民法第三十四条の規定に基く公益財団法人であること、及び、被告板橋一雄は昭和二十三年七月二十四日以降引続き被告普及会の会長兼理事長(理事も兼ねる)、評議員の地位にある者であり、原告小池十三、同米沢豊は昭和二十六年四月一日に、同小泉武、同国広武逸、同牧石康平は昭和二十七年一月十日に、同花島新太郎は同年五月一日に、それぞれ被告普及会の理事及び評議員に選任せられたものであり、同片岡昭二郎は昭和二十六年二月二十六日に被告普及会の評議員に選任せられたものであること。並びに被告板橋が、

(一)、昭和二十七年九月十三日、被告普及会の理事及び評議員の選任は寄附行為第十三条及び第十七条の各規定に基きいずれも会長たる被告板橋の専権事項であるとして、被告普及会の理事会議、及び、評議会の決議に基くことなく、被告普及会の会長たる資格で被告毛利政弘、同中井宗夫、同佐藤十郎、同佐々木猛二、同横井孝、同石持良吉、同阿部博、同宮田憲介、同佐々木喜代次、同中静市郎、同大黒安雄の十一名を被告普及会の理事及び評議員に、同黒木秋造を被告普及会の評議員にそれぞれ選任し、右理事選任の点につき、同年十月十六日東京法務局日本橋出張所においてその旨登記を了し、

(二)、次で、同年十月十一日午後六時、東京都中央区日本橋室町三丁目一番地協和会館において、被告普及会の評議会を開催し、同年九月十三日会長たる被告板橋によつて選任せられた右新評議員十二名と被告普及会の評議員たる訴外藤田武及び会長被告板橋、並びに、監事訴外日下繁、計十五名が出席したにすぎず、従来からの評議員である原告等七名が出席しなかつたにも拘らず、被告普及会の評議員が正当に成立したものとして議事に入り、緊急動議として上程された「東京地方裁判所昭和二十七年(ヨ)第四、四三二号財団法人仮処分命令申請事件を提起した役員、並びに之に協力した役員解任の件」という議題を審議し、この議題につき右評議会において、原告片岡が被告普及会の評議員たること、及び、原告片岡を除くその余の原告等六名並びに訴外外岡昊、同藤田晃雄が被告普及会の理事及び評議員たることをそれぞれ解任する旨の決議をなしたとして、理事たる右六名の原告等及び訴外外岡の理事解任の点につき、同年十月十六日同法務局においてその旨の登記を了し、

(三)、更に、同年十月十三日午後六時、右同所において、被告普及会の理事会議を開催し、同年九月十三日会長たる被告板橋によつて選任せられた右新理事のうち被告中井、同佐藤、同横井、同石持、同宮田、同佐々木喜代次、同中静、同大黒の八名と理事たる会長被告板橋、並びに、監事訴外日下繁、計十名が出席したにすぎず、従来からの理事である原告片岡を除くその余の原告等六名が出席しなかつたにも拘らず、被告普及会の理事会議が正当に成立したものとして議事に入り、右理事会議において、被告普及会は財政及び事業状況に照して目的事業の成功が不能であるとして、その解散、並びに、被告板橋、同毛利、同中井、同大黒の四名を清算人に選任する、との各決議をなすと共に、同日午後七時三十分、右同所において、引続き被告普及会の評議会を開催し、右理事会議に出席した被告等九名(いずれも評議員にも選任されている)及び監事訴外日下繁と被告普及会の評議員たる訴外藤田武、並びに、同年九月十三日会長たる被告板橋によつて選任せられた右新評議員たる被告黒木秋造、計十二名が出席したにすぎず、従来からの評議員である原告等七名が出席しなかつたにも拘らず、被告普及会の評議会が正当に成立したものとして議事に入り、右評議会においてもまた、右理事会議におけると全く同様の被告普及会の解散、並びに、清算人選任の各決議をなしたとして、同月二十日同法務局においてその旨の登記を了したこと。以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二、原告等は、昭和二十七年九月十三日被告板橋のなした右理事、評議員の選任行為、同年十月十一日開催せられた右評議会における理事、評議員解任決議、並びに、同月十三日開催せられた右理事会議及び評議会における被告普及会の解散並びに清算人選任の決議は、いずれも法律上全くその効力の発生するに由なきものであると主張する。

よつて、以下、順次その主張の当否について判断する。

(一)  昭和二十七年九月十三日被告板橋のなした右理事、評議員の選任行為について

原告等が右選任行為の無効を主張する理由の第一は、被告普及会の理事、評議員の選任は理事会議、評議会の決議で決すべき事項であつて、被告等が主張するごとく、会長たる被告板橋の専権事項では決してないというのである。よつて按ずるに、被告普及会は民法第三十四条の規定に基いて設立せられた財団法人であり、その機関として会長及び、理事によつて構成せられる理事会議、並びに、評議員によつて構成せられる評議会があること、理事会議と評議会とは共に議決機関であることはいずれも当事者間に争いがない。問題となるのは被告普及会の理事、評議員の選任は右三者のうちいずれの機関の権限事項であるかということである。原本の存在とその成立について争いのない甲第十三号証によれば被告普及会の寄附行為は別紙〈省略〉記載のとおりであることが認められる。しかして、被告普及会の寄附行為は、この点に関し、まず、会長の権限事項としてその第十三条において「理事ハ評議員中ヨリ会長之ヲ委嘱ス」第十七条において「評議員ハ会長之ヲ委嘱ス」と規定している。しかし、右にいう「委嘱ス」という意味は必ずしも明瞭でない。他方、その第二十三条において理事会議の審議事項として「理事会議ハ…………予算決算及事業執行ニ関スル主要事項ヲ審議ス」と規定し、また、その第二十四条において評議会の審議事項として「評議会ハ………寄附行為ニ定ムル事項ノ外会長ニ於テ重要ト認メタル事項ヲ審議ス」と規定している。右によれば、評議会の審議事項は一応明確にせられているけれども、理事会議のそれは予算決算の二事項が例示せられていると解される外、「事業執行ニ関スル主要事項」の具体的内容について詳びらかにせられていない。のみならず、右にいう「審議ス」という意味、いい換えれば、理事会議、評議会がいずれも議決機関たることについて当事者間に争いがないとしても、それは被告普及会の意思決定機関であるのか、或いは単なる諮問機関的なものにすぎないのか、その機関として性格如何ということが必ずしも明確にせられていない。従つて、右に掲げた寄附行為の諸規定からだけすれば、理事・評議員の選任が、寄附行為第二十三条にいう「事業執行ニ関スル主要事項」中に包含せられ、理事会議で審議決定せられる事項なのか、或いは、同第十三条、第十七条の規定との関連上、それは主要事項中から除外せられて会長の専権に委ねられた趣旨なのか、にわかに断じ難いところである。

かかる場合、それは、表示せられた寄附行為の右各規定に基き、それを客観化、合理化して寄附行為者が企図した被告普及会の管理形態を捕促し、その目的に適合するように解釈し決定せらるべきものであつて、それがためには、寄附行為のうち被告普及会の管理に関する諸規定を彼此対照勘案することを要すると共に、寄附行為が作成せられた当時の事情経緯乃至はその後の運用の実際を検討することもまたこれが決定をなすにつき斟酌せらるべき一因たることを失わない。ところで、

(イ)、寄附行為第十一条の規定によれば、被告普及会には監事若干名を置くことになつており、同第十六条前段は監事の選任につき「監事ハ評議員ノ互選ヲ以テ選任シ会長之を委嘱ス」と規定している。この規定はその表現必ずしも明確とはいい得ないが、被告普及会がその議決機関として評議員によつて構成せられる評議会を設け、評議会に、前認定のごとく、寄附行為所定の事項その他を審議せしめることにした趣旨からすると、右にいう「評議員ノ互選ヲ以テ」選任するとは、監事は「評議会における決議をもつて評議員の資格を有する者の中から」選任する、という意味に解すべきである。次に、「選任シ」とは、その文理上の解釈からするも、また、評議会が議決機関であることの性質からするも、その字義のとおり評議会における決議をもつて「選任し決定する」意味であることに疑いがない。しかして、「会長之ヲ委嘱ス」とは、従つて、評議会の決議によつて監事に選任せられ決定せられた者を「会長が形式的に任命する」という意味に解さざるを得ない。これを要するに、寄附行為第十六条前段は、監事は評議会における決議をもつて選任し決定し、会長はかくして選任せられた者をたゞ形式的に任命する、ということを規定している。これを証拠にみるに、成立に争いのない甲第十一号証によれば、右の解釈と全く同様に、昭和二十六年四月一日開催せられた評議会において訴外日下繁を監事に選任する旨の決議をなし、会長たる被告板橋がその席上で同訴外人を監事に任命している事実を認めることができる。ところで、民法上の公益財団法人にあつては、監事は任意的機関であるに反し、理事は必須の機関であり財団法人運営の中心である。また、被告普及会の評議員は、評議会の構成員として被告普及会の資産の基本財産への繰入、基本財産の処分管理に関する事項、会長の推薦、監事の選任、寄附行為の変更など被告普及会運営の枢機に参画する重要な地位にあること寄附行為第五条第三号、第六条但書、第八条第三号、第十二条前段、第十六条前段、第二十四条、第二十六条の各規定によつて明かである。これ等からすると理事、評議員の職務権限は監事のそれに比し優ることはあつても決して劣るものではない。しかるに、若し、寄附行為第十三条「理事ハ評議員中ヨリ会長之ヲ委嘱ス」、第十七条「評議員ハ会長之ヲ委嘱ス」の各規定を解して、被告等が主張するごとく、理事、評議員の選任を会長の専権事項とする旨を定めた規定であると解するならば、監事の選任は評議会の決議によつて決定するという誠に慎重な方法を採つているに拘らず理事、評議員の選任は理事たる会長(寄附行為第十二条前段)が、理事会議乃至は評議会の決議その他によることなく、単独で自由に判断し決定し得るものとなり、いかにも不合理であると、いわなければならない。

(ロ)、また、理事会議、評議会の機関としての性格に関し、寄附行為第十六条前段が監事の選任に関し評議会が被告普及会の意思決定機関であることを規定していること前述のとおりであるが、その外に、同第二十八条は寄附行為施行細則は理事会議の議決を経て別にこれを定める旨を規定し、また、同第五条第三号、第六条但書、第八条第三号、同第十二条前段の規定は、それぞれ、被告普及会の資産の基本財産への繰入、基本財産の処分管理に関する事項、及び、会長の推薦(選任)は評議会の決議をもつて決定せらるべきことを当然に予定しているものと解せられる。従つて、これ等の規定によると理事会議、評議会は、少くとも右事項に関する限り、やはり被告普及会の意思決定機関であると認め得る。

(ハ)、翻つて、被告普及会の寄附行為が作成せられた当時の事情経緯等について按ずるに、証人又木周夫、同大沢貞一の各証言によれば、被告普及会は訴外財団法人機械化国防協会からその財産の一部を寄附せられて設立されたもので、被告普及会の寄附行為は、被告普及会の設立関係者と右訴外協会の職員が共同して、右訴外協会の寄附行為を基にして草案を作成した、いわば焼直し程度のものであつたこと、及び、被告普及会の初代会長訴外又木周夫は右訴外協会の幹事であつたもので昭和二十一年二月被告普及会が設立せられると同時に会長に就任したものであるが、被告普及会の寄附行為作成当時の経緯が右のごとくであつたのに鑑み、被告普及会の理事、評議員の選任は、右訴外協会におけるそれに做い、当然理事会議の決議をもつて決定すべき事項であると解し、昭和二十三年七月被告板橋と交替するまでその在任中、理事、評議員の選任は例外なく理事会議の決議によつて決定していたという事実を認めることができる。また、いずれも成立について争いのない甲第十一、第十二号証の各記載と証人上田健二の証言によれば、被告板橋が会長に就任した以後においても、理事、評議員の選任は会長たる被告板橋が単独で自由に決定していたものではなく、少くとも理事に、場合によつては評議員に諮つていたもので、例えば、昭和二十六年四月一日開催せられた評議会においては理事の選任決議がなされており、同年五月二日開催せられた理事会議においては評議員の選任(再任)決議がなされているがごときであり、かようにして本件係争の理事、評議員の任免がなされるまで運営せられていたという事実を、なお、理事会議、評議会の機関としての性格に関し、以上認定の各事実の外に、いずれもその成立について争いのない甲第六号証及び同第七号証の一乃至七によれば、従来、寄附行為の変更は評議会の決議により、また、重要なる目的事業の経営維持、多額の借入金をもつてする建造物の新築に関しては、理事会議の単独の決議により、或いは理事会議と評議会の双方の一致した決議により、それぞれ決定せらるべきものとして取扱われていたという事実を、それぞれ認めることができる。右認定に反する証人藤田武の証言は、上掲の各証拠に対比して措信することができない。なお、被告板橋一雄の本人尋問の結果における右の点に関する供述部分は、結局、被告板橋が会長に就任以来本件係争の理事、評議員の任免がなされるまでの間、理事、評議員の選任は理事、評議員に諮つたうえで(それが理事会議、評議会の決議という方法で決定していたかどうかは措く)決定していたというに帰着するもののごとくであつて、必ずしも右の認定に反するものとはいえないし、他に右の認定を左右するに足りる証拠がない。

(ニ)、以上のごとく、被告普及会の寄附行為の各規定を彼此対照勘案すると共に寄附行為が作成せられた当時の事情経緯等を考量してみると、寄附行為第二十三条の規定にいう「事業執行ニ関スル主要事項」の中には理事、評議員の選任が包含せられるものであり同条及び同第二十四条の規定にいう「審議ス」とは、審議し決定するという意味であると解せらるべきである。

かくして、被告普及会においては、理事、評議員は次のごとくにして選任せられ決定せられ且つ任命せられるものと解する。即ち、先ず、寄附行為第二十三条の規定に基き理事会議における決議によつて理事、評議員が選任せられ決定せられる。但し、会長において重要と認めた場合は、それを評議会において審議せしめることができ、かように会長によつて特に附議せられた場合は、同第二十四条の規定に基き評議会が理事会議に代つて理事、評議員の選任決議をなし、評議会における決議によつて被告普及会の意思が決定せられる。しかして、かくして理事会議、場合によつては評議会における決議によつて理事、評議員に選任せられ決定せられた者に対し、会長は同第十三条及び第十七条の各規定に基き理事、評議員の任命をする。しかし、同第十三条及び第十七条の各規定によつて会長の権限事項とされている任命行為は理事会議、場合によつては評議会における決議によつて選任せられ決定せられた者を任命するという、あくまで形式的な行為に止まるのであつて、誰を理事、評議員に任命するかについての実質的な決定権は会長に与えられていない。その決定権は、前述のとおり、理事会議、場合によつては評議会にある。従つて、会長は理事会議、場合によつては評議会における決議によつて選任せられた者は必ずこれを任命するを要し、これを拒むことができないと共に、理事会議、場合によつては評議会における決議によつて選任せられなかつた者を理事、評議員に任命することはできない。仮に、会長が理事、評議会の選任決議に基かずに、形式上理事、評議員の任命行為をなしたとしても、その任命行為は決定権のない者のなした行為であるからそれによつてその相手方が理事、評議員の資格を取得するものではない。かゝる意味において、会長のかくのごとき任命行為は形式上一応存在するものとしても実質的な効果の伴はない法律上無効な行為である。このように解することが被告普及会の寄附行為の最も合理的な解釈であると信ずる。

以上の解釈によつてこれを本件についてみるに、昭和二十七年九月十三日被告板橋のなした右理事、評議員の選任行為は、被告普及会の決議に基くことなく、会長たる資格で擅になした行為であることは当事者間に争いのないこと前述のとおりであるから、右理事、評議員の選任行為は、原告等の主張するごとく、すでにこの点において無効であるというべきであり、被告等のこの点に関する主張は失当といわなければならない。従つて、原告等の爾余の主張事実に判断を進めるまでもなく、被告毛利、同中井、同佐藤、同佐々木猛二、同横井、同石持、同阿部、同宮田、同佐々木喜代次、同中静、同大黒は被告普及会の理事及び評議員の資格を、また、同黒木は被告普及会の評議員の資格を右選任行為によつて取得するものではないこと明かである。

(二)、昭和二十七年十月十一日開催せられた評議会における右理事評議員解任決議について

(1)、原告等は第一に、原告等七名に対し右理事、評議員解任の意思表示がなされていないから、仮令、右評議会において右解任決議が有効になされたとしても、その一事のみによつては未だ原告等七名に対し右解任の効果が発生したということはできないと主張し、次いで、第二として、被告普及会の理事、評議員の解任は理事会議の決議によつて決定せらるべきものであつて評議会の決議によつて決定し得べきものではないから、右評議会における解任決議は無効であると主張するに対し、被告等は理事、評議員の解任はその選任と同様に、元来、被告板橋の専権事項であるが、場合によつては評議会の決議によつても決定し得る事項であるから、右評議会における解任決議は有効であり、且つ右解任決議は原告等に通知ずみであると主張する。

よつて按ずるに、前に認定した被告普及会の寄附行為には、理事、評議員の解任について明文上何等直接的な規定は設けられていない。しかし、理事、評議員の選任が寄附行為第二十三条にいう「事業執行ニ関スル主要事項」中に包含せられ理事会議の決議によつて決定せらるべきものであること、但し、会長において重要と認めた場合はそれを評議会において審議せしめることができ、かように会長によつて特に附議せられた場合は、同第二十四条の規定に基き評議会が理事会議に代つてその決議をもつて理事、評議員を選任し決定し得るものであることはいずれも前段で詳述したとおりであるから、寄附行為の明文上反対に解すべき規定がなく且つ他に特段の事情の認められない本件にあつては、理事、評議員の解任もまた、その選任と同様に、同第二十三条の規定により理事会議の決議によつて決定せらるべきものではあるが、会長が重要と認めて評議会に附議した場合は、同第二十四条の規定に基き評議会もまたその決議をもつて、理事会議に代つて、理事、評議員を解任し決定し得るものと解すべきである。従つて、理事、評議員の解任は、原告等が主張するごとく、理事会議の決議によつてのみ決定せられるところの理事会議の専権事項ではないし、他方会長たる被告板橋の専権事項でもない。昭和二十七年十月十一日開催せられた右評議会において「東京地方裁判所昭和二十七年(ヨ)第四、四三二号財団法人仮処分命令申請事件を提記した役員並びに之に協力した役員解任の件」を審議すべきであるとの緊急動議が上程され採決せられたことは当事者間に争いのない事実であり、成立についての争いのない甲第二十三号証によれば、右仮処分命令申請事件を提起した役員とは、評議員たる原告片岡及び理事、評議員たる原告片岡を除くその余の原告等六名を指称し、之に協力した役員とは理事、評議員たる訴外藤田晃雄、同外岡昊の両名を指称するものであること、及び、被告板橋は会長兼理事長評議員の資格で右評議会に出席し議長となつて議事進行を主宰していたが、右緊急動議が採決せられたのに基き、その席上において直ちに、原告等七名及びその他の者の理事、評議員たることの解任を、右評議会の議事々項として審議すべきことを命じている事実を認めることができる。してみると、これは会長たる被告板橋が原告等七名及びその他の者の理事、評議員たることの解任を右評議会に附議したものというべきであるから、右評議会において原告等七名その他の者の解任を審議し決定し得る場合たるを失わない。従つて、右評議会においては、理事、評議員の解任を審議し決定し得ないとする原告等の主張はその限りにおいて失当である。

以上のごとく、被告普及会の理事、評議員の解任の決定方法はその選任におけると全く同様であると解するのであるが、原告等はなお、理事、評議員の解任が右評議会において審議し決定せられ得るものとしても、解任の効果が発生するがためにはその決定に基き会長たる被告板橋がその相手方たる原告等に対し改めて解任の意思表示をなさなければならないという。しかし、被告普及会の寄附行為第十三条、第十七条は会長が理事、評議員を、「委嘱ス」と規定しているのみであつて、解任の意思表示をもなすべき旨を定めた規定とは到底解することができない。理事、評議員の解任はその決定機関たる理事会議、場合によつては評議会とその機関を構成すべき理事、評議員との間の関係であるから、寄附行為においてその選任におけるがごとき特別の規定がないと解される以上、理事会議、場合によつては評議会が理事、評議員の解任の意思表示をなすのであつて、この場合は決議が単なる内部的な意思決定にすぎないものでは決してなく決議自体が解任の意思表示たる効力を有するものである。従つて右解任決議の外に、更めて、会長たる被告板橋が右解任の意思表示をなす必要はない。

なお、被告等は、右評議会における解任決議は原告等に通知ずみであると主張するに対し、原告等はこの点もまた争うもののようである。しかし、被告等は右評議会において解任決議がなされたことを本訴においてつとに主張している事実であるから、遅くも本訴によつて右解任決議が原告等に通知せられたというに妨げない。原告等のこの点の主張も失当である。

(2)、原告等は第二の理由として、理事、評議員の解任が評議会の決議によつて決定せられる場合があるとしても、右評議会の決議は種々の瑕疵があつて到底決議としての効力の発生するに由ないものであると主張する。

よつて、まず、右評議会の構成についてみるに、その出席者が、昭和二十七年九月十三日会長たる被告板橋によつて評議員に新に選任せられたという前記の被告毛利等十二名の被告と、被告普及会の評議員たる訴外藤田武及び会長被告板橋、並びに監事日下繁、計十五名であつて、従来からの評議員である原告等七名が出席しなかつたことは当事者間に争いのないこと前述のとおりである。ところで、昭和二十七年九月十三日被告板橋が右理事、評議員の選任行為をなした当時における被告普及会の評議員は、原告等七名の外に、訴外外岡昊、同藤田晃雄、同藤田武と理事、評議員を兼ねている会長被告板橋の計十一名であつたことは当事者に争いのない事実であるから、他に特段の事情のない本件にあつては、右評議会が開催せられた同年十月十一日までの間右十一名の者が引続き評議員の資格を有していたと認むべきであり、他方、昭和二十七年九月十三日被告板橋のなした右理事、評議員の選任行為は無効であり、従つて、その相手方たる右被告毛利等十二名の被告が被告板橋の右選任行為によつて評議員の資格を取得するものではないこと前段で認定したとおりである。また、被告普及会の寄附行為によれば、その第二十五条において、評議会の定足数として評議会は評議員の三分の一以上出席することを要する旨を規定していることが明かである。してみれば、右評議会には評議員十一名中訴外藤田武と会長被告板橋のわずか二名しか出席せず、しかも、評議員たる資格を有しない右被告毛利等十二名の被告が出席し議事に参加しているのであるから、かような者等によつて構成された右評議会は、法律上被告普及会の評議会ということはできない。従つて、右評議会においてなされたという原告等七名、及び、その他の者の解任決議なるものもまた法律上不存在であり、解任の効力の発生するに由ないものである。昭和二十七年十月十一日開催せられた評議会における右理事、評議員解任決議の効力を争う原告等の主張はこの点において理由がある。よつて爾余の点については判断を進めない。

(三)、昭和二十七年十月十三日開催せられた右理事会議及び評議会における解散並びに清算人の選任決議について

被告普及会の解散、並びに、清算人の選任が理事会議及び評議会の双方の決議の合致によつて決すべきものであること、しかしながら、昭和二十七年十月十三日開催せられた右理事会議には昭和二十七年九月十三日会長たる被告板橋によつて新に理事、評議員に選任せられたという前記の被告等十二名のうち、被告中井、同佐藤、同横井、同石持、同宮田、同佐々木喜代次、同中静、同大黒の八名と理事たる会長被告板橋、並びに、監事訴外日下繁、計十名が出席したにすぎず、従来からの理事である原告片岡を除くその余の原告等六名は出席しなかつたこと、また、右評議会には右理事会議に出席した被告等九名(いずれも、評議員にも選任せられたものとしていること前述のとおりである)と、被告普及会の評議員たる訴外藤田武、及び、昭和二十七年九月十三日会長たる被告板橋によつて新に評議員に選任せられたという被告黒木秋造、並びに、監事訴外日下繁、計十二名が出席したにすぎず、従来からの評議員である原告等七名は出席しなかつたことは、いずれも当事者間に争いのない事実である。しかして、昭和二十七年九月十三日被告板橋が右理事、評議員の選任行為をなした当時における被告普及会の理事は原告片岡を除くその余の原告等六名の外に、訴外外岡昊、同藤田晃雄、理事を兼ねる会長被告板橋の計九名であり、また評議員は右九名の理事の外原告片岡訴外藤田武の計十一名であつたことは当事者間に争いのない事実であり且つ昭和二十七年十月十一日開催せられた評議会における原告等七名及び訴外外岡昊、同藤田晃雄の理事、評議員たることの解任決議が効力を発生するに由なきものであること前認定のとおりであるから、昭和二十七年十月十三日開催せられた右理事会議及び評議会当時において、右の者等が引続き理事、評議員の資格を有していたと認むべきである。他方、昭和二十七年九月十三日被告板橋のなした右理事、評議員の選任行為は無効であり、従つて、その相手方たる右被告等は右選任行為によつて理事、評議員たる資格を取得するものでないこと前段で認定したとおりである。また被告普及会の寄附行為によれば、その第二十五条において、理事会議及び評議会の定足数として、理事会議及び評議会はそれぞれ理事、評議員の三分の一以上出席することを要する旨を規定していることが明かである。してみれば、右理事会議には理事九名中被告板橋一名しか出席せず、しかも、理事たる資格を有しない右被告中井等八名の被告が出席し議事に参加しており、また、右評議会には評議員十一名中訴外藤田武と被告板橋のわずか二名しか出席せず、しかも、評議員たる資格を有しない右被告中井等九名が出席し議事に参加しているのであるから、かような者等によつて構成された右理事会議及び評議会は法律上いずれも被告普及会の理事会議、評議会ということはできない。従つて、右理事会議及び評議会においてそれぞれ決議せられたという被告普及会の解散、並びに、清算人選任決議なるものもまた法律上不存在でありその効力の発生するに由ないものといわなければならない。原告等のこの点の主張もまたすでに理由があるから、爾余の点については判断を進めない。

三、以上により、以下、原告等の請求の当否について判断する。

(一)  昭和二十七年十月十三日開催せられた被告普及会の理事会議、及び、評議会における、被告普及会の解散、並びに、被告板橋、同毛利、同中井、同大黒を清算人に選任する、旨の各決議はいずれも無効なることの確認を求める原告等の請求の趣旨第一項は正当としてこれを認容する。

被告等は、右は過去の事実の確認を求める不適法な訴であると主張する。しかし、原告等の右の請求は右理事会議、及び評議会の決議がいずれも法律上不存在であることを理由にして、右決議が若し有効に存在していたとすれば発生したであろうところの法律関係が発生しないまゝの状態にあることの確認を求めるものに外ならないのであるから、その理由において正当と認められる限り右確認請求を認容することは差支ないものと解する。

(二)  次に、昭和二十七年十月十三日開催せられた右理事会議、及び評議会における被告普及会の解散、並びに、清算人選任決議がいずれもその効力の発生するに由なきものである以上、被告普及会は完全な権利能力を有するものとして存続し、従前の機関構成員たる理事、評議員によつて活動し運営せらるべきものであるところ、被告普及会の理事、評議員の任期が寄附行為いずれも二年と定められていることは当事者間に争いがなく、また、前認定の被告普及会の寄附行為によれば、その第二十条において、理事、評議員は任期満了後といえども後任者の就任するまではその職務を行うものとする旨を規定していることを認めることができる。しかして、昭和二十七年九月十三日会長たる被告板橋がなした被告毛利、同中井、同佐藤、同佐々木猛二、同横井、同石持、同阿部、同宮田、同佐々木喜代次、同中静、同大黒に対する理事、評議員選任行為、及び被告黒木に対する評議員選任行為はいずれも無効であり、他方、原告小池、同米沢、同小泉、同国広、同牧石、同花島はいずれも前認定の日に被告普及会の理事及び評議員に、また、同片岡は前認定の日に評議員に選任せられたものであること前認定のごとくであつて、しかも、昭和二十七年十月十一日開催せられた評議会における、原告等七名その他の者に対する理事評議員の解任決議が効力の発生するに由なきものである以上、右に述べた理事、評議員の任免以外にそれ等の者の後任者が就任したとの事実について何等の主張も立証もない本件にあつては、右被告等十二名がいずれも被告普及会の理事、評議員の職務を行うものでないこと、並びに、原告等七名がいずれも理事、評議員の職務を行うものであることの確認を求める原告等の請求の趣旨第二、第三項もまた正当としてこれを認容する。

(三)  原告等は更に請求の趣旨第四項において被告板橋に対し、被告板橋が被告普及会の名において、原告等主張のごとき各登記の抹消手続をすることを求めている。

右は原告等が昭和三十一年六月十五日の本件口頭弁論期日において新たに追加変更したものであるが、本件において原告等は旧請求として、右各登記のそれぞれの登記原田となつている昭和二十七年十月十三日開催せられた右理事会議及び評議会における被告普及会の解散並びに清算人選任決議が無効であること、並びに、同年九月十三日被告板橋のなした右理事選任行為が無効であることを理由に右選任行為によつて理事に選任せられたという右被告等十一名がいずれも理事としての職務を行うものでないこと、及び、同年十月十一日の右評議会における理事解任決議が無効であることを理由に右解任決議によつて解任せられたという原告片岡を除くその余の原告等六名及び訴外外岡昊、同藤田晃雄が依然理事の職務を行うものであることを主張し、すでにその確認請求をなしているのであるから、右追加併合した新請求は、法律的には別個のものではあるがかゝる登記の抹消登記請求権が若しも認められ得るものとするならば、後者は前者を基として当然に生ずるもの、いわばその変形物乃至は附随物ともいい得る関係にあるから請求の基礎に変更はなく、且つ、右新請求を追加併合することによつて著しく本件の訴訟手続を遅滞せしめるものとも考えられないから、被告等の異議に拘らず、右新請求の追加併合による訴の変更を許容して差支ないものと解すべきである。しかしながら、仮に、原告等に右登記の抹消登記請求権があることを肯定し得るものとしても、さような抹消登記申請をなすことを求める請求は被告普及会に対してなすべきものであつて、被告板橋は被告普及会の会長であり理事をも兼ねている者とはいえ、被告板橋個人に対して請求し得べき限りのものではない。従つて、原告等のこの点の請求は正当なる被告適格を有する者以外の者を相手方としてなした法律上無意味な請求であるから訴の利益のないものとして棄却すべきである。

よつて、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条、第九十二条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 菅野啓蔵 高橋太郎 高林克己)

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